①触覚で愉しむ芸術
・携帯できる小宇宙
長谷川邸保有本
「ちりめん本」は、浮世絵と同様に施された和紙でありながら、まるでちりめん織絹のような手触りを持つ、不思議な質感の和綴じ本です。そこには明治時代の卓越した木版印刷の技術と、和紙をちりめん布のように加工する「縮緬(ちりめん)」の技法、そして深い異文化交流の歴史が凝縮されています。手のひらサイズに日本の粋を詰め込んだ、極めてユニークな工芸品といえるでしょう。
当時、ちりめん本は「日本を代表するお土産」として海を渡り、ヨーロッパの芸術家たちに多大な衝撃を与えました。彼らにとって、ちりめん本が持っていた以下の3つの特質は、全く新しい芸術体験だったのです。
- 1.触覚で楽しむ芸術
・紙でありながら、しなやかで「はんなり」とした布のような感触。この触覚的な喜びは、硬い表紙を持つ当時の洋書にはない、驚きに満ちた体験でした。
- 2.掌(てのひら)の上の小宇宙
・大判の浮世絵よりも持ち運びやすく、精巧な木版画と異国の物語をどこへでも携行できる。さらに、ちりめん加工によって強靭さを増した紙は、何度手に取っても損なわれない「小・精・美・強」を兼ね備えた親しみやすいアートでした。
- 3.デザインとイラストの融合
・文字と挿絵が画面の中で有機的に一体となったレイアウトは、後のアール・ヌーヴォーやグラフィックデザインの発展にも多大な影響を与えたと言われています。